
泡盛造りの工程をはじめ、三日麹や泡盛101号酵母、減圧蒸留など泡盛造りを知るうえで欠かせない重要キーワードを解説します。
目次【本記事の内容】
画像でわかる泡盛ができるまで

沖縄県酒造組合のサイトで紹介されている泡盛造りの工程は全部で8項目です。
項目だけではイメージしにくいので画像とともに紹介します。大きな工場の設備では壮大すぎてわかりにくいので、8年間手造り泡盛体験をしている忠孝蔵での泡盛造りの画像から選びました。
- ①洗米
- ②浸漬|米を水に浸すこと
- ③蒸し
- ④黒麹菌の種付け|米麹づくり
- ⑤もろみ|水と酵母を加えアルコール発酵
- ⑥蒸留
- ⑦熟成|割り水して度数調整
- ⑧容器詰め|銘柄によってはさらに割水をして度数調整し、詰める
①洗米

②浸漬
これはシー汁で浸漬しています。

③蒸し

④黒麹菌の種付け



⑤もろみ


⑥蒸留


⑦熟成
忠孝酒造は酒造メーカーとして唯一自社で甕(琉球城焼き)を開発・製造しています。

⑧容器詰め

文章をできるだけ減らして、見るだけで泡盛造りの工程がイメージしやすい画像を選びました。泡盛造りの詳細なレポートはこちらにまとめています。関連|忠孝蔵で手造り泡盛体験
動画でわかる手造り泡盛体験
僕が泡盛造り(洗米)を体験している様子を忠孝酒造の井上さんが動画で紹介してくれました。何回目の体験だろう?いつ撮られていたのか全然記憶にないです(笑)
シー汁ってどんな汁?②

こちらは忠孝酒造さんの「夢航海」。2012年に味もラベルも一新した夢航海の最大の特徴といえば、昔ながらのシー汁浸漬法で造られていることです。
僕が受けた年の泡盛マイスター筆記試験でも「シー汁とはなんぞや」という問題が出ました。
シー汁は前回洗米した時の米のとぎ汁という程度の理解で止まっていましたが、試験の講評に「シー汁はただの米汁のとぎ汁ではないのでしっかりと理解するように」と書いてありました(汗)
で、夢航海を飲むときに忠孝酒造さんから定期的に届く「あわもり忠孝だより」をひっぱり出してみて、シー汁は「ただの米汁のとぎ汁なんかではない」ことに気が付いたというわけ。

通常の浸漬は長くても1時間程度ですが、シー汁浸漬は15~24時間という長時間、米を水に漬けておくため乳酸菌といった微生物が増えることで水がすっぱくなります。
ただただすっぱくなっているわけではなく、浸漬中に乳酸菌などの微生物がお米の表面を削ることで甘みのあるやわらかな酒質の泡盛ができるそうなので、日本酒でいうところのお米を磨く工程を微生物がおこなっているといえるのかもしれません。
このメカニズムを科学的に実証したことで「日本醸造協会技術賞」を受賞されていることはもちろん素晴らしいのですが、経験的にシー汁浸漬法の効果を知っていた昔の杜氏も素晴らしいですよね。
理解が進むほどに泡盛も進むのですごくいい気分です。すいすいと飲みやすい飲み口からして減圧蒸留かな?と思いましたがどうやら常圧蒸留のようです。この辺をすぱっと見極められないようでは泡盛マイスターとしてまだまだですね(汗)
《追記》忠孝酒造さんのブログ「新しくなった夢航海」によるとリニューアル後のラベルの夢航海は減圧蒸留でした。間違ってなかったようです(^^)
さて夢航海という名は「泡盛を飲みながら、夢を大いに語ってほしい」という願いをこめて命名されているようなので、美味しいからといえ飲み過ぎて午前4時のマーライオンとか、くれぐれも「夢後悔」にならないように気を付けます(苦笑)
三日麹は手間と暇がかかってます③
泡盛を造る工程の中で麹造り(製麹)は、蒸した米に黒麹菌(種麹)をふりかけて黒麹菌を繁殖させて米麹を造ります。麹造りにかける時間は40時間位という酒造所が多い中で、さらに時間をかけて造った麹を三日麹(老麹)といいます。
麹造りにかける時間が泡盛の香味の個性をつくるのに影響を与えています。
- まだ胞子が出ない白いうちに麹造りを終えた場合(若麹)は、爽快で華やかな香り
- 胞子が出て黒くなってから麹造りを終えた場合(老麹)は、重厚で複雑な香り
三日麹で有名な泡盛はこちらです。
- 「松藤」・崎山酒造廠
- 「瑞泉三日麹」・瑞泉酒造


約96時間かけて麹を造った忠孝酒造の「忠孝よっかこうじ(43度)」という泡盛もあります。

43度という度数を感じさせず、なめらかな甘みのある味わいで、よっかこうじは三日麹の上を行く常識破りの泡盛といえます。そんなわけで、よっかこうじは泡盛マイスターの度数当ての練習に持ってこいの泡盛だったりします(笑)
麹と酵母の違いは?⑤
お酒をよく飲んでいる方でも勘違いする人が多いのが、麹と酵母の違いです。
泡盛造りを例に、ものすごく簡単に言うと
- 黒麹菌は、でんぷんを糖に変える役割(糖化)を担っています
- 酵母は、代謝によって糖分からアルコールと炭酸ガスを作っています
そしてアルコールと炭酸ガスだけでなく、いろいろな香味成分も一緒に作られているので使う酵母によっても泡盛の味わいに個性が生まれるというわけです。
泡盛の酵母といえば、咲元酒造さんで対面を果たした泡盛101号酵母が定番です。

ちなみに「泡盛101号酵母」というのは新里酒造の新里 修一氏が従来の「泡盛1号酵母」の中から60億分の1の割合で存在する「泡なし酵母」の分離に成功し、これを実用化したものです。
従来の酵母の場合、酵母が活動すればするほど泡が立ち容器からあふれたりするため、つきっきりで泡をかき混ぜたり仕込みの量を減らしたりと泡の管理に大変苦労していました。
それが泡なし酵母(泡盛101号酵母)を使用することで、
- 泡の管理が容易になって仕込み量が増える
- アルコールの生成が速いため雑菌汚染の割合が低くなる
結果、アルコールの取得量も増えるという、まさに泡盛製造に革命をもたらしたといっても過言ではないすごい酵母なのです。
さらに泡盛101号酵母から分離された酵母で造られた「101H(イチマルイチハイパー)」という泡盛が新里酒造さんから発売されています。泡盛酵母の三段活用って感じで素敵です(^^♪

他にも各酒造所で新しい酵母を使った泡盛が開発されています。
- 天然吟香酵母NY2-1を使った「ender(エンダー)」瑞穂酒造
- オリジナルの忠孝酵母を使った「豊吉」忠孝酒造
どちらも初心者にも飲みやすい泡盛を意識し開発された商品のようです。
「ender」はこの通りラベルのデザインも洗練されています。

「豊吉」はなんと!キャップにくじが付いています。こんな泡盛は初めて見ました。
くじの種類には「小吉」「大吉」「豊吉」があるみたいですが、僕が引いたのは・・・

「小吉」でした。引き弱~(苦笑)

と、飲んで楽しむだけじゃない遊び心のある泡盛です。どちらも酵母だけでなく個性的な泡盛ですね。
新しい酵母で造られた泡盛は他にもあるので、ぜひ飲み比べて酵母の違いによる泡盛の香味の個性を楽しんでみてください。
- 黒糖酵母の「美ら燦々(30度)」・瑞穂酒造
- 宮古島原生のMY酵母の「MY17(42度)」・多良川
- 花酵母の「花島唄(25度)」・まさひろ酒造 etc
減圧蒸留とは?⑥
泡盛や焼酎を飲んでいて減圧や減圧タイプという言葉を耳にしたことはありませんか?
これは蒸留方法の1つで一般的な常圧(じょうあつ)蒸留に対して、減圧(げんあつ)蒸留のことを指します。
圧と聞いただけで物理が苦手な僕は深入りするのは止めようと思いましたが、泡盛をもっと楽しみたいと思ったときに避けて通れないのが蒸留方法でした。
泡盛をはじめ蒸留酒は、水より低温で沸騰するアルコールの性質をうまく利用して、もろみからアルコールを取り出します。
蒸留の方式は大きく2つあります。
- 単式蒸留機を使う蒸留方式です。
- 連続式蒸留機を使う方式で、原料を何度も蒸留するので純度が高いアルコールを造ることができます。
何度も蒸留することでアルコール臭の他は無味無臭となり原料の特徴が失われてしまうので、泡盛を名乗るには単式蒸留機で蒸留するという決まりになっています。
※酒税法では泡盛の蒸留回数の規定はありません。尚のように3回蒸留することも可能です。
というように泡盛の場合は必ず単式蒸留機で蒸留しますが、単式蒸留機といってもさらに2つの蒸留方法があります。
- 常圧(じょうあつ)蒸留
- 減圧(げんあつ)蒸留
減圧蒸留というのは蒸留釜内部の圧力を大気圧の10分の1程度の減圧状態にすることによって、40~50度の低い温度でもろみを蒸留することができる方法です。
低温で蒸留することができるため、もろみを加熱することで発生する焦げた臭いや刺激のある臭いがつきにくく、クセが少なくフルーティな味わいの泡盛になります。
言い換えると、減圧蒸留は常圧蒸留に比べて原料の特性があまり出ないといえるので、泡盛の蒸留方法は常圧蒸留が主流で、減圧蒸留の泡盛はまだ少数派です。ちなみに泡盛の酒造所で減圧蒸留を初めて取り入れたのが請福酒造です。1983年に請福マリンボトルが誕生しました。
こちらは八重泉酒造さんの蒸留機(縦型)です。常圧蒸留と減圧蒸留の切り替えができるタイプです。おそらく切り替えができるタイプが主流なんじゃないでしょうか。

ほとんど泡盛を飲んだことがないという方でも「残波白」・比嘉酒造を飲んだことがある方は多いのではないでしょうか?
残波白(25度)は減圧蒸留でその特徴がよく表れている泡盛だと思いますので、減圧蒸留特有の味わいは残波白でイメージしてもらえたら。

泡盛以外の焼酎でも減圧蒸留で造られたものがあります。麦焼酎のいいちこは2つの蒸留法のブレンドのようです。減圧蒸留のこの説明はシンプルでわかりやすいですね。

昔ながらの直釜式蒸留とは?⑥
泡盛の蒸留方法には常圧蒸留と減圧蒸留がありますが、加熱の仕方でさらに分けることが出来ます。
まずは、もろみが入った釜を直火で加熱する直釜式蒸留。
他には水蒸気で加熱する方法で、もろみの中に入れたコイル等に蒸気を送り間接的にもろみを熱する間接加熱方式と、蒸気を直接もろみに吹き込む直接加熱方式があります。
直釜式蒸留はもろみを攪拌しながら蒸留しなければならず、手間暇がかかるため現在の主流は水蒸気による加熱ですが、直釜式蒸留は昔ながらの風味豊かな泡盛を造ることができる蒸留方法です。

A重油を燃料にした直釜式蒸留器の炎です。釜の底全体を加熱しているイメージがあるかもしれませんが、加熱するのは底の一部分だけだそうです。
燃料を霧状に噴射してそれに火をつけているので、釜の底の一部をずっとバーナーで加熱しているとイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。

石垣島の暑さでは特に夏場の蒸留作業は過酷でしょうね。少しでも泡盛造りの現場の情報に触れることで、大変さがわかってより美味しくいただくことができます。
直釜式蒸留で造られた泡盛には「八重泉」・八重泉酒造や「於茂登(おもと)」・高嶺酒造所をはじめ八重山の泡盛があります。
その中でも個人的に代表格と思っているのが「直火泡盛 請福」です。なんせ銘柄にまで直火と直釜式蒸留であることを記していますからね。工場見学で請福酒造さんにお邪魔したときは赤々と燃える蒸留機の直火をしっかりカメラに収めました(^^)v

今では直釜式蒸留機を使っているのは石垣島、波照間島、与那国島、宮古島の離島の酒造所だけで沖縄本島の酒造所では使われていませんと書きそうになりましたが・・・忘れてはいけないところがありました。
8年連続で泡盛造りを体験している忠孝酒造さんの手造り泡盛工場(忠孝蔵)も直釜式でした。

直釜式蒸留機は細心の注意を払っていても、もろみを焦がしてしまうこともあります。でもそれが希少なので泡盛ファン垂涎のお宝になるというわけ。与那国島に行ってこれを買わずに帰れませんでした(^^)

挑戦者求む!泡盛の蒸留機クイズ⑥
突然ですがここでクイズです!
工場見学をされた方じゃないと難しいかもしれませんが泡盛のおつまみに挑戦してみてください。ここまで読んでいる途中に少しヒントを書いておきました。
蒸留方法の異なる泡盛を集めて飲み比べするのは面白いですよ。蒸留方法が同じでも酒造所毎にまた味わいが違うので面白いです、おすすめします(^^)
コラム|ブラック、ホワイトって麹菌の色?
泡盛を飲んでいるとよく目にするのがブラック、ホワイトなどの色にちなんだ泡盛の銘柄。
有名な残波黒、残波白をはじめ
- 赤の松藤
- 春雨ブルー
- 瑞泉イエロー etc
すぐにでも戦隊モノができそうなくらいに充実しています(^^)
黒麹菌で仕込んだ芋焼酎の「黒霧島」から想像すると、使っている麹菌の種類(黒麹菌、白麹菌、黄麹菌など)と銘柄の色は関係しそうですね。
でも泡盛造りには、すべて黒麹菌を使わなければいけないので、ブラックもホワイトも、イエローも麹菌の種類とは無関係です。
黒々としたカビが生えていていつ見てもインパクト大ですね。

じゃあ色は関係ないのか?というと・・・この泡盛を見てください。

左のボトルの色が茶色ですよね。この画像ではわかりにくいかもしれませんが(苦笑)
このボトルは久米仙酒造のグリーンボトルに対抗して、菊之露・久米島の久米仙・多良川が共同開発した卓上ボトルでブラウンボトルと呼ばれています。
ボトルに刻まれたこの「菊久多」の文字は3つのメーカーの頭文字でしょうね。

ブラウンの由来についてピンときましたか?
- 菊之露ブラウン
- 久米島の久米仙ブラウン
- 多良川ブラウン
といったブラウンの由来はボトルの色からきています。
ちなみに他に違いはないのかどうかメーカーさんに聞いてみたところ
- 普通の三合瓶に入っていれば「菊之露」で、このブラウンボトルに入っていれば「菊之露ブラウン」。中身の泡盛自体に違いはないらしい
- 久米島の久米仙ブラウンには古酒をブレンドしている
- 多良川さんのブースもあったのに聞きそびれたのは、僕の詰めの甘さです(汗)
※2011年の泡盛大試飲会で伺った情報です。現在は変更されているかもしれません。
グリーン、ブラウンはボトルの色から命名されていますが、こちらの龍ゴールドはどうしてゴールドなのか?
ラベルの色はゴールドですね。

光り輝く龍ゴールド、その由来は?
それは・・・