
泡盛のラベルや瓶に貼られているシールの日付を見て「賞味期限が切れている!」と思った方は多いと思います。
あの日付は賞味期限ではありません。賞味期限が表示されていないどころか、泡盛はなんと!瓶の中でも熟成すると言われています。
泡盛はどうして古酒になるのか?熟成の謎に迫ってみました。
目次【本記事の内容】
泡盛に賞味期限はないの?
泡盛のラベルや貼られているシールに書かれている日付は、賞味期限ではなく詰口年月日というもので泡盛を瓶や甕に詰めた日です。
お店で泡盛を手に取った日よりも確実に前になるので、詰口年月日ということを知らないと、この泡盛は賞味期限が切れていると思ってしまうのも当然のことなんですよね。
泡盛は蒸留酒でアルコール度数が高いものがほとんどです。酒質の変化があまりないことが賞味期限を記載していない理由だと思います。
詰口年月日を表示するのは当初は義務でしたが最近は任意のようです。

自宅でも古酒作りができる
古酒作りは泡盛メーカーだけのものと思われるかもしれませんが、自宅で自分で古酒作りをすることも可能です。
自宅で古酒作りに挑戦するなら?容器はこのあたりでしょうか?
- 瓶
- 甕
- 樽
- ステンレスタンク etc
ステンレスタンクはないな~と思うかもしれませんが、沖縄で泡盛マイスターの先輩のお宅で家庭用?のステンレスタンクを拝見したことがあります。見た目は小振りなプロパンガスみたいでした。やっぱり一般的ではないですね(笑)

樽は僕も10リットルのを1つ持っています。2019年に購入して樽詰めしたばかりですが、新樽とはいえ1週間たらずでこれだけ色が付くんですよね。
樽が小さいと経年による変化よりも樽からの影響が大きいので、いわゆる泡盛の熟成とはまた違った楽しみ方になります。となると自宅で古酒作りを始めるなら瓶か甕ということになります。
古酒作りは瓶と甕のどっちがいい?
泡盛は甕で熟成させることを想像する方が多いのかもしれませんが、アルコールと水が組み合わさって味が丸くなるのは甕も瓶も一緒です。
瓶は甕と違って密封されているので泡盛が空気を吸えません。窒息状態なので香味成分の変化は甕と比べると起こりにくくなるといわれています。ただし甕は密閉されていない分、失敗するリスクは高まります。
熟成のスピードは甕と比べると瓶は緩やかということになります。
瓶熟(びんじゅく)とは?
泡盛は熟成することで味わいが増す(美味しくなる)という特徴があり、全量を3年間熟成させたものを古酒(こしゅ、クース)といいます。
泡盛の熟成というと甕で寝かせるイメージがあると思いますが、泡盛は瓶詰めされた後も熟成が進み瓶で熟成させたものを瓶熟(びんじゅく)と言ったりします。
瓶熟は瓶熟成(瓶内熟成)の略ですね。ほとんど省略されてませんが。
でもこんな声が聞こえてきそうですね・・・瓶のままでほんまかいな?
確かに瓶のままで10年間保管していた泡盛が美味しくなるどころか、残念な感じになっていたという話を聞いた事があります。
一方でこんなに美味しい宮之鶴は飲んだことがないと、居合わせた全員(ほとんど泡盛マイスター)が唸るほどに美味しく育っていたということがありました。
その宮の鶴は杜氏のお名前が先代のものだったので、かなり古いものだったと記憶しています。

他にも瓶熟の7年、8年古酒を飲んだ時は美味しくなっているように感じたことが何度もありました。
また瓶熟状態で販売されている泡盛もあります。これは25度に加水して2001年から瓶に詰めて熟成させていた泡盛です。
- 残波Z(ゼット)2001古酒(25度)|比嘉酒造
言ってみたら14年もの長期間、前割り状態で保存しておいたようなもの。水と泡盛の馴染み具合が半端じゃありません。美味しかったなぁ。

2つの豊年で瓶熟の効果を検証する!
これまで幾度となく瓶熟泡盛の美味しさを感じたことがありましたが、瓶で熟成したものと新酒を並べて飲み比べたわけではないので実際のところどうなんでしょう?
熟成させなくても、そもそも美味しい泡盛だったのかも?
やってみないとよくわからんというわけでやってみましょう(^^)/
泡盛の瓶熟成の効果を比較するのにうってつけのものが手元にありました。瓶詰めされた日が10年違う宮古島の泡盛「豊年30度|渡久山酒造」です。

- 左|平成16年に瓶詰めされたもの
- 右|平成26年に瓶詰めされたもの
10年という歳月をかけて泡盛が瓶の中でどんな変化を遂げているのか?
同じ銘柄で飲み比べてみたら面白そうだと買っておいたものです(造り自体は変わっていないと一応仮定しての比較です)
左の豊年の詰口年月日(泡盛を瓶詰めした日)は、「16.12.2」
撮影した日は2015年(平成27年)なので16は2016年ではなく、平成16年ということです。現行のものとは違った見慣れないラベルですね。

右の豊年の詰口日は「26.6.19」なので、平成26年に瓶詰めされた泡盛ということになります。

ちなみに左の豊年は買ってから家で10年間保管しておいたわけではありません。
私そんなに意志が強くないので(笑)
偶然にもこの2本は同じ日に買ったのですがお店は別です。左の豊年はかれこれ10年以上も売れ残っていたことになりますね。嬉しいような悲しいような複雑な心境です。。
瓶熟成は甕と比べると熟成のスピードは緩やかといわれますが、それでも10年間寝かせておけば立派な古酒になっているはず。
さて結果は!

瓶で10年間熟成させた豊年(左側)の印象は・・・
- 角がとれて丸くなっている
- 香りは控えめな印象
- 口当たりはまろやか
- 喉を通る時にまろやかさが良くわかる
違いがわかりやすかったのは度数です。
どちらも同じ30度ですが10年間熟成させた豊年は度数が低く感じます。25度と言われればそうかなと思ってしまいそうです。
どちらの豊年を美味しいと感じるかは好みの問題ですが、とにかく古酒作りは難しく考えなくてもいいんだという手ごたえを感じました。
古酒を育てるといっても難しく考えずに泡盛を買ってただ家に置いておけばいいだけ。直射日光の当たらない場所、暑くなり過ぎない場所など保管場所には少し気をつけてくださいね。
瓶熟は保管状態がポイント
実は劣化したような味わいになっていた瓶熟の泡盛を飲んだことがあります。水とアルコールが分離してしまったような感じで舌にピリピリと刺してくるような違和感がありました。
ちなみにその泡盛はミニボトルでした。持ち主によると長年、蛍光灯の光にさらされた状態だったとか。
保管状態は味わいに大きく影響するようです。 箱なしで店頭で売れ残っていたような泡盛は、瓶熟成の効果はあまり期待できないと個人的には思っています。
この体験が少なからず影響していますが、他のお酒、一般的な焼酎は瓶の中で熟成しないのに泡盛だけが熟成するといわれると疑問は色々と沸いてきます。
また、調査の結果、瓶熟成の効果ははっきりとわからなかったという論文があると耳にしたことがあるので現在、その論文を探しています。
仕次(しつぎ)とは?
1番古い泡盛が入っている甕、2番目に古い泡盛が入っている甕、3番目に古い泡盛が入っている甕・・・というようにいくつか甕を準備します。
1番古い泡盛が入っている甕から少し泡盛を取り出して味見をしたら、その分を2番目の甕から1番甕に継ぎ足し、2番目の甕には3番目の甕から継ぎ足し・・・
という具合に、飲んだ分を新しい甕から継ぎ足しながら泡盛を熟成させる方法を仕次(しつぎ)といいます。
少しだけ新しい泡盛を継ぎ足すことで泡盛が活性化して美味しくなるといわれています。

泡盛が水になってる。。

ある酒屋さんでのこと。
はじめてのお店でしたが店主と泡盛談議に花が咲き「その泡盛ならそこにあるよ」と店主が指差すその先には、大きな一斗甕がありました。
商品ではなくお店で育てている泡盛の甕です。
店主が中の泡盛を汲み出す様子を見守っていたのですが、味を確認した店主がひとこと・・・
「水になってる・・・」
僕もひと口味見させてもらうと確かに水のようになってました。
掘り下げて表現すると泡盛の空瓶に水を入れて、それを飲んだような味の液体でした(>_<)
汲み出すときに店主が甕の中にかなり腕を入れていたので、大分中身が少なそうだけど大丈夫かなと思ったら案の定でした。
甕で寝かせている間に古酒になるどころか、水っぽくなってしまった泡盛との悲しい出会いのお話でした。
甕で古酒作りの秘訣!
甕で古酒作りをするときの秘訣を参考文献とともにご紹介します。注意すべきポイントは代表的なものを厳選しました。
- 仕次(しつぎ)のタイミング
- 甕の選び方|大きさ・焼き方・素焼き VS 釉薬あり
- 甕に入れる泡盛の量
仕次(しつぎ)のタイミング
琉球最後の国王、尚泰王の四男である尚順男爵がご自身の失敗から得た古酒造りの秘訣を「鷺泉随筆」の中でこう書かれています。
仮令(たとい)、最初の親酒はあっても継ぎ足す時に、新醸の酒(俗にいうシピャー)でも入れたら、親酒は全く代なしになって、馬鹿を見た例は幾らもある。
私は此失敗をば予て知っていたから前轍は踏まなかったが、小瓶に古酒を貯えながら旅行の為仕次を怠って折角の古酒をば悉皆、水の様に死なした経験は幾度も見た。
旅行のため仕次(しつぎ)をするタイミングを誤ったという、ちょっとしたことでも古酒を育てるときには命取りになるということです。
尚順男爵でさえ何度も水にしてしまったというくらい古酒を育てることは難しいようです。素人が失敗するのは仕方のないことなんでしょうね。
古酒づくりに使う泡盛は度数が高いものが多いと思いますが、それでも油断は禁物。泡盛の甕はまめに点検をしないといけませんね。
甕の選び方|大きさ・焼き方
そこで、色々と研究の結果、早く酢敗する原因が容器の小さい割りに口が広く、酒精分の放散が多くなって、少しでも仕次を遅らすと忽ち腐水(酒を取った後に残る水分の名称)になって仕舞うという事が漸く分かったので、此れを防ぐには是非共貯蔵の酒量を多くして、夫に適応する容器を持たねば駄目だと思っている時に、(略) 出典「鷺泉随筆」
要するに、たくさんの泡盛を貯蔵すること、そのために大きな甕でアルコール分の蒸発をできるだけ抑えるために、甕の口が小さいものを選びなさいということですね。
- 大きな甕
- 口が小さい甕
完全に密閉された容器に保管しない限り、泡盛は時間とともに少しずつ蒸発します。
水分とアルコール分がバランスよく減っていけば、水っぽくはならないはずです。
あのお店の甕の泡盛はおそらくアルコール分の減少が著しかったんでしょうね。泡盛のアルコール分がとんで水っぽくなってしまったようです。
- 仕次を忘れていたのか?
- 甕に問題があったのか?
そもそも何度の泡盛をいつからその甕で保管していたのでしょうね。
かなり気になるところでしたが、あまり触れてはいけないような気がして深追いできなかったので(笑)、詳細は分からずじまいです。
ちなみに、甕は少し黄色っぽくて俗に言うしっかり焼き締められた甕とは程遠い雰囲気で、一般的な泡盛の甕よりも中身が蒸発しやすそうに思えました。
甕の選び方|素焼き VS 釉薬あり
できるだけ多くの視点から沖縄を知ろうと、読んだ「沖縄幻想(奥野修司/洋泉社)」の中で著者が考える沖縄の観光資源として取り上げられていたのがこの3つでした。
- やんばるの森
- 城(ぐすく)
- 古酒
古酒作りにまつわる内容が書かれているページで手が止まりました!
「貯蔵する甕は素焼きがいいと言われるが、根拠があるわけではない。素焼きなら「酒は呼吸できるはずだ」という、何となくわかったような理屈からである。」「むしろ釉薬をかけた甕の方がよかったり、・・・」
これらは沖縄随一の古酒の理論家である、謝花 良政氏の古酒造りのエピソードによるものです。
古酒作りには釉薬がかけられていない甕が適しているというのが定石とされているにも関わらず、同じ泡盛を釉薬がかけられた甕とかけられていない甕で寝かせて比較されたのでしょうね。
このエピソードひとつをとってみてもかなりのお金と時間を費やして、古酒作りを実践されてこられたのが伝わってきます。
釉薬をかけた甕の方が良かったなんて聞くと、古酒作りというのは想像以上に奥が深いなぁとしみじみ思います。
僕は甕での古酒作りを始めたばかりですが、10年後、20年後にどんな古酒に育つんだろうかと考えるだけでワクワクします。
甕に入れる泡盛の量はどのくらいがいい?
「琉球の宝 古酒 古酒造りハンドブック(山入端艸以)」は、謝花流古酒造りを中心に泡盛の古酒作りについて書かれた本です。
謝花流古酒造りでは、詰めた泡盛の表面と蓋の先端とのすきま(この空間をヘッドスペースと呼ぶ)は3〜5cmにするのが良いとのこと。
泡盛仕次古酒秘蔵酒コンクールに出品するときに、一番甕から汲み出した分の泡盛を二番甕から補充するときは、これに従っていつもより多めに泡盛を入れてみました。

また、この本で紹介されている琥珀色に輝く極上の古酒というものを飲んでみたいと思い、ずっと探していましたがやっと見つけることができました。
これがその琥珀色に輝く極上の古酒(古酒まさひろ南蛮貯蔵)です。見てください!樽熟成じゃないのにこの色!

樽熟成の味わいをイメージしたままで口に含むと、もはや異次元。
鉄分をたっぷり補給できている手ごたえをひしひしと感じます。いくら頑張ったところで、ここを目指すには南蛮甕じゃないと絶対に無理なことがよくわかりました。
参考文献

松山御殿(マチヤマウドゥン)物語―明治・大正・昭和の松山御殿の記録
尚弘子 2002年8月
古酒の話だけではなく、イタミ六十という醗酵した豆腐で作った珍味について書かれた豆腐の礼讃など、尚順男爵の「鷺泉随筆」が収められた松山御殿物語。入手するのは難しいようですが、だからこそ泡盛好きなら読んで欲しい一冊です。
コラム|失われた100年古酒に思いを馳せる
尚詮氏(尚順男爵の六男)の親友が松山御殿物語に寄稿された「松山御殿の思い出」に次のような一文がありました。
その玄関の下に地下室があって、そこは泡盛の保存場所で百年以上も前から貯蔵した古酒のカメが十数本おかれていた。詮君がそのカメを開けてサジですくって見せてくれたのが梅色や黄色になった古酒がつまって、香ばしいかおりをただよわせていた。
その古酒も倉庫も戦争でなくなってしまった。高価な歴史的遺産がなくなったわけである。
百年以上も前から貯蔵した古酒とはまさに尚順男爵の古酒。あの戦争さえなければ、変わらずさらに時を重ねていたことでしょう。
50年物、100年物といった古酒を熟成することができるのは、言い換えればその間ずっと平和だったということに他なりません。これからは100年、200年と安心して古酒を育てることができる世界であって欲しいものです。

琉球の宝 古酒 古酒造りハンドブック
山入端艸以

焼酎・泡盛ハンドブック
ゆったり焼酎・スッキリ泡盛の会 池田書店 2007年2月
焼酎・泡盛ブックは2007年に発行されたものなので、ラベルが現行のものと違っているものや終売になっているものも多くてハンドブックというよりは資料として楽しめます。
コラム|古酒ならぬ古書の秘かな楽しみ方
ハンドブックに載っている「豊年」のラベルは、我が家にある瓶で10年間熟成された豊年のラベルと同じでした。

ちっちゃいけどよく見るとハンドブックの方の詰口日も同じ平成16年(に見える)。「豊年」の隣の「千代泉」のラベルも見慣れないデザインです。
こんな風に一覧になっていると「一番高いのはどれなのか?」とついつい探してしまうのですが、みなさんはそんなことしませんか?笑
ちなみに泡盛の中で一番高かったのは「守禮(限定20年古酒・43度)」・神村酒造でした。

これも瓶で20年間熟成させた泡盛です。これは瓶熟成泡盛のスーパー古酒ということになりますね。
最高額といっても2万5千円!高いといえば確かに高いのですが、ワインと比べると泡盛ってかなりリーズナブルだなと思います。